コーチングの当初に必要な知識を、5つに整理しました。
「コーチング」と聞くと、何やら特別な「わざ・スキル」という印象を受けますが、プレッシャーを感じる必要はありません。
社員が自律的に習慣を改善するためのサポートをするのだ…
と肩の力を抜いて臨んでください。
コーチングの知識を獲得するだけでも、面談などの際に役立ちます。
※日本では「コーチ」という響きに対して強圧的なイメージが付きまとうので、あえて「サポーター・サポート」と表現しています。
さて、なぜ「始める前に知識が必要」と言うのか、疑問に思う方もいると思います。
その理由は…
本来のコーチングとビジネスコーチングには大きな違いがあるからです。
まず、このことにふれてから、5つのポイントを解説します。
コーチングについては、これより3項目に分けてポイントを解説していきます。
本記事は「❶始める前に必要な知識:5つのポイント」になります。
- 始める前に必要な知識:5つのポイント
- 全体モデルと各段階のサポート
- コーチングの実践例(導入段階・展開段階・終末段階)
こんな方・場面に役に立ちます。
- 人材育成が会社経営の重点となり、その任にあたることになった。
- 新人が入り、人材育成のスタートの時期である。
- コーチングの基礎知識を知りたい。
本来のコーチングとの違いがわかれば、ポイントが明確になる
ビジネスコーチングは社員の能力開発に有効である一方、本来のコーチングとの違いから、留意すべきポイントがあります。
本来のコーチングとの違いがわかれば、ポイントが明確になりますので、紹介します。
目的を有する立場が逆転していることから、ビジネスにコーチングを取り入れる場合、導入段階から本来のコーチングとは大きな違いが出てきます。
以下より、5つのポイントを解説…
始める前に必要な知識:5つのポイント
ポイントは以下の5点です…
- コーチングの関係によって部下を育てる
- 個に応じたアプローチを明らかにする
- 社員個々の仕事観の構図をつかむ
- 仕事観をテーマに変換し、具体化する
- 協働関係をつくるために「同意」を得る
ポイント1 コーチングの関係によって、部下を育てる
ビジネスコーチングの難しさは、日常は上司と部下という縦関係にありながら、コーチングの場面においては協働関係を構築しなければならない点にあります。
企業がコーチングを外部委託する理由は、ここにあります。
協働関係が一番誤解を生みやすいので、少し難解な概念ですが、以下の図で理解を深めてほしいと思います。
要は、「私」が主体となって「部下」の能力開発にあたる、というイメージではなく、「部下」との「コーチングの関係」が「部下」の能力を高める、というイメージです。
よく、コーチングは双方向と言われますが、厳密には「コーチングの関係」をはさんで双方向、というのが正確なところです。
力点を置くところは…
目の前の「部下」ではなく、部下との「コーチングの関係」の成立です。
目の前の「部下」に焦点を当てすぎると、「コーチングの関係」が、いつの間にか「ティーチングの関係」に変質してしまう恐れがあります。そこで、マネジャーは…
指示・命令を下す上司という立場から、キャリア発達のサポーターへとマインドセットを変えることが必要になります。
※日本では「コーチ」という響きに対して強圧的なイメージが付きまとうので、あえて「サポーター・サポート」と表現しています。
あくまで、マネジャーはサポーターであり、行動を変える主体は対象者本人である、ということを心にとめてください。そして…
「理想の自分(対象者)」を目指して、部下と上司が協働する。
というイメージをもって、コーチングを進めることが、第1のポイントです。
ポイント2 個に応じたアプローチを明らかにする
自分に課せられた責任を果たすためには、対人スキルを高めないと、これ以上の成果は望めないと思います。
特に交渉力を高めたい。
今の収入で満足しています。
部署もこのままで不満はありません。
という社員A・Bには、導入段階でのアプローチが違います。
コーチングを始めるに当たって、社員Aのように動機が顕在化している場合は、次のステップとして具体化のアプローチをしますが…
社員Bの場合はまず動機づけが必要。
社員Bに対する動機づけは確かに難しく、時期(タイミング)を見計らってアプローチをするのも一つの手段です。
しかし、一定の期間で能力開発をしなければならない場合は、以下の表をたよりに、個に応じた観点から「問いかけ」や「提案」による動機づけは可能。
社員Bについては、上記の「仕事に対する価値観」以外の観点からアプローチが必要と思われます。しかし、過去の出来事をきっかけに、本人が向き合いたくない価値観があり、それが潜在化している場合もあります。
言わば「檻に入っている」状態です。
無理に引き出す必要はありませんが、本人の口から「以前はね…」という言葉が出た場合は注意深く耳を傾けるとよいと思います。
言葉にすること自体が、「聞いてもらいたい」という心の傾斜をあらわしています。
また、コーチングは、よく「自発的行動を促進するコミュニケーション」と言われることから、相手に提案してはいけない、と考えがちです。
しかし…
上司と部下が一緒になってアイデアを出し合うという協働関係が構築できれば、「提案」はコーチングの有効な手段。
例えば、可能性についてアイデアを出し合う中で、社員Bに対し…
- もし、○○ができれば、将来どんな変化が期待できますか?
- ○○に挑戦すると、あなたはどのようなことを学ぶことができますか?
- 挑戦にあたっては、私がサポートしますよ。
という動機づけにつながる「問い」や「提案」は、してもよいのです。また…
不満の解消も一つの方向性を生むので、モチベーションの一つととらえて「問い」に活かしてください
ということで、個に応じたアプローチを明らかにすることが、第2のポイントです。
ポイント3 社員個々の仕事観の構図をつかむ
コーチングには目標とするテーマが必要ですが…
社員の仕事観はそのままではコーチングのテーマにつながりません。
抽象的であったり、漠然としていたりすることがほとんどです。
そこで、入口として以下の自己診断ツールを使ってみるのも一つの方法です。
項目は、会社の状況に応じて変更、またはさらに具体化してください。
(例)のように、対象者にどの項目に価値を置いているかを10段階で書いてもらいます。
項目間には関連性があるので、関連づけて構図化すると社員の仕事観が見えてきます。
例えば「昇進」「スキルアップ」「成果・目標達成」が高い社員は…
という構図があると想像できます。
また、「効率性」「やりがい」「成果・目標達成」が高い事務系の社員は…
という構図で仕事に向き合っているかもしれません。これらはセッションの中で明らかになります。
自己診断ツールを使うことで、社員の仕事観を把握できるとともに、仕事観の構図を明らかにできます。また、社員の考え方を知ることもできますし、この後に示す「具体化」も可能です。
ということで、社員個々の仕事観の構図を明らかにすることが、第3のポイントです。
ポイント4 仕事観をテーマに変換し、行動を促す
さらに、この自己診断ツールを用いてテーマを明らかにしたり、スケーリング・クエッションを行うことで行動を促したりできます。
難しくはありません。
今度は各項目について自己評価をさせ、このツールに付け加える形でグラフ化させてください。例えば以下のように…
すると、仕事観と自己評価の差異が明らかになります。
ある項目に高い価値をおいていながら自己評価が低い場合もあれば、近似する項目もあると思います。差異がある項目にテーマがある、と社員自身が気づきます。
さらに、例を挙げて説明します。
例えば、「やりがい」の自己評価として「9」を選択した社員に対して …
と問いを発してください。この質問だけで、その社員のテーマを行動へと具体化できます。
その他の具体化の発問例を紹介します。
- そこにたどり着くには、どんなステップが考えられますか?
- そのステップを上がっていく上で、自信があること、難しいと感じていることを話してください。
- どんなスキルを高めたい(磨きたい)のですか?
- それは、どんな場面で必要と感じたからですか?
- どのような場面であなたの強みを活かすことができますか?
- 過去、自分の強みを活かしてうまくいったことを話してください。
具体化した後に、以下のような質問を入れると仕事観の構図が重層化し、モチベーションを高めることもできます。
それができると、他の項目にもよい影響が出てくると思いますよ。どんなよい影響が考えられますか?
最後に、仕事観の差異が少ない場合のアプローチを書いておきます。この場合、「仕事観の構造化」以前に、「仕事をする上で、何を大切にしたいと考えているか」という仕事観が形成されていない、と考えられます。
このような社員には、身近な体験から仕事観を形成するようなアプローチが必要です。
例えば、入り口として
- これまでの仕事の中で、「うまくいった」と感じた経験について話してください。
- これまでの仕事の中で、改善したいと思ったことは、どんなことですか?
といった「問い」から始めるとよいと思います。
そして…
- 手始めに、今年はどんなことに挑戦したいですか?
- どのようなステップで、目標に迫りますか?
- 時間があれば、その他にどんなことに挑戦したいですか?
と、社員の心の中に、キャリアップの構図が描けるようにサポートしてください。
ということで、仕事観をテーマに変換し、行動化することが第4のポイントです。
ポイント5 協働関係をつくるために「同意」を得る
上司と部下という縦関係をなるべく協働関係に近づけるには、対象者から「同意」を得ることが必要です。
「同意」を得るとは、考えや思いの違いをすり合わせながら賛成を得ること、ととらえてください。
その際、「コーチング」という言葉を使うと、育成プログラムのような印象を与えることが多いので、例えば、最初のきっかけとして、このように言うとよいと思います。
あなたの [ 対象者のテーマ ] が実現できるように、継続的にサポートしようと思うんですが…いくつか提案していいですか?
と、きっかけをつくって、必要な「同意」を得るようにしてください。
同意の内容については、以下の表を参照してください。
それぞれの内容は双方向の関係にあることに留意してください。
導入の段階で、「進め方」についても「同意」を得ておくと、以後がスムーズにいきます。お互いに以後の心づもりができるからです。
そこで、以下のような入り口で、話を進めるとよいと思います。
あなたが決めたテーマについて、私はどのように手伝ったらいいか、率直に話してください。
ということで、協働関係をつくるための「同意」を得ることが第5のポイントです。
カギは、部下に「気にかけてくれる」という実感をもたらすこと
今回は、研修会等で示してきたビジネスコーチング導入前の知識を記事にしました。
本記事で挙げたポイントを踏まえ、タイミングを見計らって、個に応じたアプローチを徐々に進めていくとよいと思います。
忙しい日常の中で簡略化して進める場合は、記事の中で挙げた「問い」を、個に応じて簡潔に構成し、対象者に投げかけるとよいと思います。
まずは、「気にかけてくれている」という実感を部下にもたらすことが重要。
このことが「コーチングの関係」に発展しますので、「問い」を使うことによって、部下に「気にかけてくれている」という実感を深めていってください。
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