
「今こそ部下を指導すべき、と思っても躊躇してしまう」というマネジャーからの相談が増えました。パワハラ上司のレッテルを貼られたくない、という心配や心痛が理由です。
2020年、企業にパワハラ防止を義務付ける「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が施行されました。そこで…
どのような言動がハラスメントにあたるのか、という質問を受けることが多いのですが、個別の言動の良否や適否を取りあげても防止効果はありません。
パワハラはコミュニケーションが希薄な職場で起こりやすく、失敗を言い出せないなど率直な言動が失われた状況で発生しています。
参考:「平成 28 年度 厚生労働省委託事業/職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」P54図表41 https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11208000-Roudoukijunkyoku-Kinroushaseikatsuka/0000164176.pdf
大切なことは、問題について率直に伝えあうが、対立に発展しないという関係性の構築です。つまり…
人間関係構築スキルの獲得がポイント
そこで本記事では、人間関係構築スキルの向上を目的に〔 対立を生まない人間関係のスキル 〕を紹介します。
パワハラ・リスク防止以外でも使えます。例えば…
- 人材育成
- 夫婦関係の再構築
- 老害化の予防

マネジャーは外向きにつくった顔と本来の姿に違和感をもちながら仕事に向き合っています。
毎朝マネジャーの「顔」へと加工・編集し、「リーダーの仮面」をつけて出社する。
偽りのイメージを保つのは疲れるものです。
一方で、メリットもあるから続けています。
「立場がものをいう」とあるように、注意・指導・監督など、管理上その立場にあるからこそできる、というメリットです。
役職が同じならば対立が起こるが、上下の立場であれば指導するものされるものという関係が成立し、対立を避けることができる。
しかし、自分のイメージを加工し続けていると、周囲の人も加工した姿を自分に対して見せるようになります。
たとえるならば…
「仮面の関係」が生まれる。
仕事を進めるうえで「仮面の関係」は必要。
しかし、「仮面の関係」による率直さの喪失は避けなければなりません。
言いたいことが言えない、言うべきことも言えない職場はストレスの震源地になります。
過度な成果主義によって「仮面の関係」に拍車がかかり、上司の顔を見るだけでストレスを感じるなどメンタルヘルス不調も多く発生している。
職場のストレス状況を改善するためには、「問題について率直に伝えあうが、対立に発展しない」という関係性をつくることが重要です。
対立を生まない人間関係づくり ~ スタンフォード式が使える ~

対立の要因は想像力
対立は「想像力の働き」に起因する
私たちは、「相手の立場になって考えなさい」と言われて育ちました。
今でも職場で部下に「顧客の立場になって応対しなさい」など指導しています。
想像力を部下に求めることについては問題ありません。
しかし、この想像力を指導場面で働かせると…
君にトラブルが多いのは、お客さんの気持ちを考えて応対していないことが原因だ。
と批判になってしまいます。
相手の内面に踏み込んだ言動は、偏見や決めつけという印象を部下に与えます。
結果、後味の悪い指導になる。
そこで、紹介するのは…
■ スタンフォード大学の「インターパーソナル・ダイナミックス(人間関係の力学)」のコースで行われている授業内容です。
「タッチー・フリー(感情丸出し)」の愛称で呼ばれることもあります。
インターパーソナル・ダイナミックスは、50年以上の伝統をもつ講義であり、「スタンフォードのビジネススクール随一の知名度と人気を誇る講義」ということで、学生の9割近くが受講しています。
ビジネスシーンに転用できるのは…
行動に特化したフィードバック
平たく言えば、言いにくい内容を伝えるときに、対立に発展しないコツ…
ビジネスパーソンが置かれている状況やそのニーズに合うとともに、引退生活でも使えるスキルです。
夫婦関係の再構築や老害化予防にも使えます。
さらに、ちょっとしたコツのようなものなので…
日常の練習をとおして身につきやすく無理がないという点にメリットがある
「無理がない」というのは、うまくいかなくても対立を深める恐れがない、という意味です。
具体的な方法を次の項より解説します。
人間関係はテニスコート
スタンフォード大学では、以下の図のとおり、2つの領域(❷「双方から見える領域」と❸「部下しか見えない領域」)の境について、学生にテニスのネットがある光景をイメージさせて指導しています。
具体的な内容を、以下の図解をもとに解説します。

- 自分が熟知している領域
- 自分からも部下からも見える領域
- 部下しか見えない領域
フィードバックで大切なのは、自分から見える領域(現実)からはみ出さないことです。
そうすれば、対立を引き起こさず、率直に意見を述べることができます。
- 部下の具体的な言動
- 部下からの影響
- 部下の行動理由や見通し
- 部下のもつイメージ
❶❷の領域にとどまらず、部下の言動の理由やイメージまで踏み込んで意見すると、その指摘は非難めいて伝わります。
例えば以下のような感じです。
× 君はチームで仕事していることを忘れて、自分の意見をとおすことしか考えていない。
〇 チームに一言も言わずに決済前の計画を取引先で紹介したことを、残念に思う。
「×」のような言葉をぶつけられたら、相手は誤解されたと感じ、ひどい場合には攻撃されたと感じるので、部下を傷つけ身構えさせます。
※ 奥方から「あなたは自分のことしか考えていないのね」と言われたときに傷つくのと同じです。
マネジャーは、「部下の動機や意向を理解していると思いがち」ですが、部下が明確に言葉であらわさない限り、憶測にすぎないということです。
具体的な言動のみ取り上げることによって、率直に改善を求めることができます。
もう一つフィードバックできる内容は…
部下の言動から受けた自分への影響
自分が部下から受けた影響は、率直に伝えることができます。
反論の余地はありません。部下も同じようにこちらの領域に入ることができないからです。
〇 チームに一言も言わずに決済前の計画を取引先で紹介したことを、残念に思う。
先ほど例示で言えば、 残念に思う が「部下の言動から受けた自分への影響」です。
このひと言を添えることによって…
自身の行為が上司にどんな影響を及ぼしたのか自覚させ、反省を促すことができる
「批判」ではなく「影響」であることがポイント。
パワハラにはあたりません。
このようなやりとりを成立させるには、部下の言動から受けた自分への影響に意識を向ける必要があります。
想像力ではなく、知覚力を働かせることがポイントです。
Q&A 研修現場の声
※右端の「v」をクリックしてください…
自分が受けた影響を率直に伝えることから始めましょう。
行動に特化したフィードバックモデルには、部下自らが自分の「意向」を打ち明ける可能性が高まるというメリットがあります。
先ほどの例で説明すると…
チームに一言も言わずに決済前の計画を取引先に紹介したことを、とても残念に思う。
と言われた部下は、上司を残念な思いにさせたことには理由があることを打ち明けたくなります。ですから、部下の反応を待てばよいわけです。
もし、黙り込んでしまう場合には…
何か意図や見通しがあったのだろう。それを聞かせてくれないか?
その返答に対して、その状況に応じた適切な行動のし方を指導すれば人材育成につながります。
また、このプロセスを通じて未来志向の関係を築くことも可能です。
「行動に特化したフィードバック」で人間関係を深める

職場の人間関係を改善するためには…
「問題について率直に伝えあうが、対立に発展しない」という関係性をつくることが重要です。
そこで提案したのは、「行動に特化したフィードバック」の活用。
フィードバックで大切なのは…
- 自分から見える領域(現実)からはみ出さないこと
- 部下の行動から受けた自分への影響に意識を向けて、その影響を率直にフィードバックすること
行動に特化したフィードバックモデルは、生活上の人間関係を深める上でも効果を発揮します。
人間心理に基づいたスキルだからです。
人は誰でも「自分の言動を相手がどのように受けとめたか」知りたい欲求をもっています。
承認欲求です。
人間関係を深めるには、よかったよ、楽しかったよ、うれしかったよ、など「ポジティブな受けとめ」を返せばよいのです。
夫婦関係の再構築も、まずここから。
さて、さんざん人間関係で悩んできたビジネスパーソンは、引退生活においてまで、人間関係のわずらわしさに振りまわされたくない、というのが本音です。
自分の領域に踏み込まれたくないし、相手の領域に踏み込んで老害の認定を受けたくもない。自分の領域に踏み込んでくる方とは距離を置きましょう。そして自分も…
テニスのネットを念頭に置いて、余計なひと言をはさまないようにする。
すると、老害化の予防に役立ちます。
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