要介護・要支援の認定者は、2000年4月末で218万人だったのが、2022年3月末においては690万人に増加しました。
3.2倍増です。
家族の介護や看護による離職者数は、直近(2021年)で約9.5万人という多さ。
( 厚生労働省「雇用動向調査」/2021年 )
約10万人近くが「働き続ける」ことをあきらめています。
介護離職者は50歳~64歳が最も多く、アラフィフにとっては喫緊の問題。
総務省「平成29年就業構造基本調査」平成28年10月~平成29年9月の離職者 再グラフ化https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/index.html
筆者も親の介護の真っただ中。
いつか来るだろうと予想はしていても、いざ介護に直面すると様々な葛藤が生まれます。
弱まりにつき添う苦しみ、尽きない心配、働けない時間や場所の出現など、一人では支えきれない状況に追い込まれる。
「介護離職」の4字が頭に浮かぶこともあります。
しかし、「介護保険制度」や「仕事と介護の両立支援制度」など介護者を応援する制度を利用し、現在も「働き続ける」ことを選択しています。
このような経験を踏まえて今回は、
介護サービスや両立支援制度を利用するまでの過程を中心に…
困難を「乗りきる」手だてやヒントを記事にしました。
具体的には、介護に直面したときの相談先やサービス、仕事との向き合い方です。
介護について下準備をしたい方、今まさに介護に直面している方に、お役に立ちましたら幸いです。この記事の全体像は以下のとおり…
そろそろ介護が必要かも、と思ったら…
❶ まずは病院に付き添い、かかりつけ医から「危うさ」と「希望」を聞きとる
「歩行が危うい」などの気づきから『介護』の2字が頭をよぎったら…
最初の行動として、かかりつけ医への付き添いをおススメします。
医師の口から疾病の有無とともに、生活上の「危うさ」や見通しを聞きとり、本人の自覚の有無と照らし合わせます。
生活上の危機を明らかにし、後の対処につなぐためです。
機能回復の方法も併せて聞きとり、「希望」を共有することも大切。
後々「要介護認定」の申請の際に、かかりつけ医に「主治医意見書」を書いてもらい提出しなければなりません。
「主治医意見書」は要介護状態区分の判定材料になります。
ここで大切なのは…
一人では「できないこと」を明確にすること
「できないこと」が判定区分の根拠となり、利用できるサービスの種類や回数、費用が決まるからです。
判定区分の概要を紹介しておきます…
詳細は「要介護認定の仕組みと手順」 P12へ https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000126240.pdf
医師の見立てについては、協力を得られる家族・親族に速やかに知らせます。
「危うさ」を共有することで、「介護の抱え込み」が軽減され、いざというときに支援を得られやすいからです。
❷ 自立の維持に向けて、利用できるサービスを活用する
医師の見立てをもとに…
食事・移動・整容・トイレ・入浴・歩行・階段・着替え・排便・排尿の10項目について、現在どの点に支障があるか明らかにします。
寝室の場所を変える、段差をなくすなど少しの努力で対応できる点は、時間を置かず住まい環境を改善しましょう。
大切なことは…
できる限り自立した生活が継続できるようにすること
一人暮らしのため電話だけでは心配…
という場合は、見守りカメラの導入も解消方法のひとつ。
下に紹介するのは…
- インターネット環境なしでOK
- コンセントにさすだけでOK
という簡単設置の「見守りカメラ」です。
以下のサイトで紹介されています。
電話に出ないだけで「何かあったのでは…」と気持ちが不安に傾く時期…
紹介した「見守りカメラ」は、いつでも、どこでも、家族のだれもが映像にアクセスでき、スマホで安全を確認できます。
自立した生活はできても、介護対象者宅と遠距離にある、家屋が古くて転倒時に負傷の恐れがあるなど心配な場合は…
サービス付き高齢者向け住宅を検討してください。ほかの老人ホームとは違い、要介護度の条件がありません。
空きがあれば、入居できます。
自由度の高い生活を送れるので、入居への抵抗感も少ない。
親を呼びよせるなどして同居介護すると、家族内摩擦が起こる可能性があります。
「離れていても安心」という状況をつくるほうが賢明です。
サービス付き高齢者向け住宅には、安否確認や生活相談サービスが付いています。
そのほかのサービス(食事の提供・室内の整理整頓・買い物代行・病院の付き添い・薬の管理・入浴補助・リハビリなど)については、利用すればそのぶん料金が加算されていくという仕組み。
後々必要になる支援を、必要になった時に受けられます。
デメリットは、サービス利用の費用負担が発生することです。
メリットは、何よりも介護者が「安心」を得られること。
入居までの手間をなるべく省きたい、短期間で決めたいという方は、入居相談サービスの利用をおススメします。
メール相談ができるので、遠方の方は空いた時間を利用して問い合わせができます。
全国の老人ホーム・介護施設を取り扱っている入居相談サービスを紹介しておきます。
相談は無料です。
市区町村には「地域包括支援センター」があります。検索は厚労省のホームページから:
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/
現状において利用できるサービスを検討する際は、居住地の地域包括支援センターに相談してください。
例えば、「軽度生活援助事業」の利用です。
65歳以上のひとり暮らし高齢者や高齢者のみの世帯などを対象に軽易な日常生活上の援助を行うサービスがあります。
「軽易な日常生活上の援助」とは、外出の付き添い、食材の買物、家の整理整頓などです。
福祉用具貸与や住宅改修についても、地域包括支援センターに相談できます。
サービス利用には要介護認定の申請が必要とアドバイスを受けたら、手続きを進めます。
※ 手続きについては、次の項で説明します。
最初は「介護が必要」と認めたくない心理が働きます。しかし…
早めの相談が手詰まり感を軽減します。
早々に「介護は一人では支えきれない」と気持ちを切り替えて、生活上の支障を補完する方法やサービス、施設の利用を検討してください。
自立は困難、介護が必要と思ったら…
介護保険制度のサービスを積極的に利用する人は年々増加しています。
一例を挙げると、在宅サービスの利用者は2022年3月時点で497万人と増加している。
( 2000年4月比較で4.2倍 )
利用できるサービスは積極的に活用するのが得策です。
❶ まずは要介護認定の申請手続きを進める
介護や費用負担を軽減するために、「要介護」または「要支援」の判定をもらい、介護保険サービスの利用を進めていきましょう。
居住区の市区町村の担当窓口に申請することからスタート。
先ほど紹介した「地域包括支援センター」も手続きを手伝ってくれます。
要介護認定申請後、認定調査員が「聞きとり調査」に来ます。
調査結果が判定の根拠のひとつになるので…
介護認定調査当日は、必ず立ち会ってください。
特に認知症の疑いがある方については、調査員の質問に対して普段できていないことを本人が「できる」と言ってしまうケースがあります。
立ち会うことによって、本人に代わり日頃の様子が調査員に正確に伝わるようにします。
判定がでるのは、約1カ月先。
この間、仕事の都合で本人に付き添えない場合は、緊急ショートステイを利用できます。
介護保険制度では、結果が通知される前であっても「後日、要介護認定が下りたときに、申請した日にさかのぼって保険給付を受ける」という形でサービスを受けられるようになっています。
地域包括支援センターに相談すれば、利用できるショートステイ先を紹介してくれます。
申請後にケアマネジャーもつきますので、何でも遠慮せずに相談してください。
ケアマネジャーは介護相談のほか、自治体・事業者・施設などとの連絡調整、ケアプランの作成など、多くの場面で力になってくれます。
介護度の判定が下れば、利用できるサービスの種類や回数、費用が確定します。
健康状態に変化があれば区分変更の手続きをします。その際は、速やかに担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談しましょう。
❷ 施設への入所は「早め早め」に対応する
施設への入所を検討する際は、手続きに約3か月かかると見込んでください。
以下のとおり施設利用は増え続けています。
今後も増加傾向は続く見通し。
経験から言えることは、施設への入居を検討するタイミングは「早い方がよい」こと。
相談サービスを利用すれば、「さがす」手間を省くことができます。
利用料金 無料の相談サービスを紹介しておきます。
❸ 自分自身のメンタルケアにも目を向ける
介護に直面した当初は、先行き不安で精神的な混乱が生じます。
介護は、「身体的」「経済的」よりも「精神的」な負担が最も大きく、「介護うつ」に発展する恐れもあります。
気を張っていた時期が過ぎたころには、心身の限界症状が現れる。
後ろめたい気持ちがあっても、自分が休む時間や趣味の時間、心置きなく仕事に集中できる時間を意識して確保することも大切です。
子育てと違い、介護に要する期間は予測困難。
自分時間をつくることも介護の一環、という気持ちで向き合います。
筆者は「自分時間」をつくり、一人旅を楽しんでいます…
手軽なストレス解消のアイデアとしては、以下の記事も参考になります…
職場には、自分と同じように介護を行っている人が必ずいます。
情報交換したり、互いに苦労をねぎらったりすることだけも心が軽くなります。
「お互いに苦労しますなぁ~。」「まぁ順番ですわ。」というような、ありがちな『やりとり』でも介護孤独の解消につながる。
職場の上司や同僚には、自身が介護にかかわっていることを、ぜひ話してください。
「自分もそうだよ」という人が現れますし、「お互いさま」の関係を築くことができます。
❹ 仕事を守り、自分をとりもどす
仕事と介護のバランスは要介護者の状態変化によって容易に崩れる、という前提に立って仕事の進め方を徐々に変えていく必要があります。
仕事で人に頼ることを受け入れ、相互支援的な関係づくりや周囲とともに仕事を回すような体制をつくるなど、持続可能な働き方を模索する。
仕事スケジュールの組み直す、より効率的な仕事の進め方を模索する、ムダな作業を削減する、ときには両立困難な業務を手放すことも必要です。
特に残業時間の解消が重要であることが以下のデータでわかります。
介護発生直後は、仕事と介護の双方を抱え続けるリスクを強く感じてしまいます。
しかし、仕事 → 「介護によるストレスや心配事から解放される場」という認識へと変化が生まれます。要介護者と1対1の場から離れ、さまざまな人とつながることもできる。
自分をとりもどす場として、仕事に対する見方を改めることも重要です。
❺ 両立支援制度を利用する
介護と仕事の両立支援を目的として、育児・介護休業法 ( H4施行、H7・11・14・17・22・29・R3改正 ) が制定されました。
要介護状態(要介護2以上が目安)という条件がありますが、事業主には柔軟な運用が求められています。
介護にかかわる内容は以下の6点です。
- 介護休業
- 介護休暇
- 短時間勤務などの措置
- 所定外労働の制限
- 時間外労働の制限
- 深夜業の制限
ここでは簡単に内容を説明しておきます。
対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できます。
雇用保険の被保険者で、一定の要件を満たす方は、介護休業期間中に休業開始時賃金月額の67%の介護休業給付金が支給されます。
詳しくは、お近くのハローワークにご確認ください。
介護や病院の付き添い、介護サービスの手続き、ケアマネジャーとの打ち合わせなどを行うために、年5日まで休暇を取得できます。
対象家族が2人以上の場合は、年10日までとれます。
1日、または時間単位で取得可能。
所定労働時間の短縮等の措置のことです。
会社によって利用できる制度が異なります。
例えば、短時間勤務制度・フレックスタイム制度・時差出勤の制度など、会社によって様々です。
対象家族1人につき、利用開始日から連続する3年以上の期間で2回以上利用可能。
いわゆる残業免除。
介護が終了するまで、残業を制限してくれます。
対象家族を介護するために申請した場合、会社は所定外労働を免除しなければなりません。
1回につき、1か月以上1年以内の期間。回数の制限はなし。
開始予定日の1か月前までに、書面等で請求する。早めに手続きしましょう。
深夜業を制限する制度です。
1回につき、1か月以上 6か月以内の期間。回数の制限はありません。
開始予定日の1か月前までに、書面等で請求する。
※ 深夜業:午後10時から午前5時までの労働
詳しく知りたい方は、厚生労働省のホームページへhttps://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/
総務省「就業構造基本調査」(平成29年)によると、「介護をしている」正規職員で支援制度を「利用していない」と回答したのは88.9%という結果でした。介護を行っている事実を会社に開示しない人も多い。
支援制度を利用しやすい雰囲気の醸成など、仕事と介護の両立を可能にする職場づくりが急がれます。
アラフィフがその一翼を担いましょう。
介護は「きつい」よりも「つらい」がつきまとう
同居介護中は…
老いや弱まりにつきそう苦しみに胸を痛め
施設に入所すれば…
家に帰りたい、の一言が胸に突き刺さる
介護に直面すると…
身体的な「きつさ」よりも、精神的な「つらさ」が自身をむしばんでいきます。
介護の経験者はわかると思いますが…
親から「ありがとう」と言われるたびに、喜びよりも悲しみが湧いてくる。
結局のところ、最後の看とりまで、この「つらさ」は続きます。
大切なことは、「互いに笑顔でいられる時間を増やす」を目標にすること。
これまでの内容は、次の4点に整理できます。
- 頼れる存在(相談先)をつくる。
- 必要な介護サービスや制度を利用する。
- 自身のメンタル管理をする。
- 仕事に対する見方を改める。
結論は…
「ガンバろう! アラフィフ」ではなく
「ガンバりすぎないでいこう! アラフィフ」
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