いざという時は…
「俺が責任をとるから」と言えば部下は安心する。
こう考える人は、いまや…
「化石上司」と呼ばれるようになりました。
職場の安心は、
「いざという時」だけでなく、
日頃のコミュニケーションのなかで醸成するのが令和型です。
以下の調査結果が理由のひとつ。
昨今の若者は、「行動で示す」率先型より
気にとめ、寄り添ってくれる関係重視型の上司を求めています。
とはいえ…
常に寄り添い、箸の上げ下げまで褒めていては仕事になりません。
ましてやプレイングマネジャーともなれば、
部下との接点も限られる。
そこで使えるのが、
アクノレッジメント!
「承認」と訳されますが、
明日からでも使えるコーチングの手法です。
EQリーダーシップの6つの型では、
「コーチ型リーダー」の手法になります。
詳細は以下の記事をご参照ください。
本記事では、次の4点を解説します。
- 褒めるとアクノレッジメントの違い
- アクノレッジメントのバリエーション
- アクノレッジメントの使い分け
- アクノレッジメントが心の安定剤になる理由
褒めるとアクノレッジメントの違い
アクノレッジメントとは…
相手に現れている変化や違い、成果や成長を言語化して伝えること
たとえば、
- プレゼンの構成がシンプルになったね
- いつもより早く来て準備していたね
- 昨日は、遅くまで打合せを続けていたね。
- AI活用にかかわる勉強を始めたんだね
- ここまで、目標を8回連続で達成したね
…というように事実だけを伝えます。
「褒める」は、次のように評価が加わります。
- 前よりわかりやすいプレゼンだったね。
- 資料のデータ分析が明確で、素晴らしい。
- 君は仕事熱心だね。
「褒める」にこだわると…
- ネタが尽きてガス欠を起こす
- 個人基準となり、チームに不公平感が起こる
- 外見を褒めるとハラスメントの危険性あり
部下の側も…
褒められることに依存してしまい、
褒められないと自信が低下するといった問題が起こります。
多忙な上司の側も…
評価や修飾など「ひと手間」がかかる「褒める」は、後回しになりがち。
アクノレッジメントであれば…
「事実を伝える」という、表現上のハードルが低いので習慣化しやすい。
アクノレッジメントのポイントは…
相手の変化に気づくこと
つまり日頃の「観察や会話のなかでの気づき」がものを言います。
目で見てわかる結果や行動の変化、会話のなかでわかる意識の変化に着目しましょう。
「気づき」を伝えることが
「あなたの存在や価値を私は認めているよ」
というメッセージになります。
「認める」のは言葉で伝えるだけが方法ではありません。
- 仕事をまかせる
- 役割を与える
- 推薦する
といった行為自体がアクノレッジになります。
これらは具体的、現実的なので、言葉よりも強く相手の心に響きます。
アクノレッジメントのバリエーション
アクノレッジのバリエーションを増やすことで、「認める」機会が多くなります。
結果、部下は、
うちの上司は、
自分を気にとめてくれている
…など安心を得て、あなたへの信頼を高めます。
バリエーションを増やすには、情報収集が必要。
次の4点に着目し、
相手の変化や状況を観察しましょう。
❶ 目標達成の結果
結果に対するアクノレッジは、達成感や自信を高める効果があります。
目標を達成したことを明確に認めることで、今後の挑戦に対する積極性を促します。
君が担当したプロジェクトの成功で
業績予想を上方修正するそうだ
❷ 目標達成までのプロセス
プロセスに焦点を当てたアクノレッジで、目標達成のための努力や工夫を認めます。
プロセスの承認は、部下の達成までの道のりにおけるモチベーションの維持に寄与します。
たとえば…
君の考えたアプローチの成果が
数字にあらわれ始めたね
❸ 目標達成に向かう行動
行動に対するアクノレッジは、目標に向けた具体的な行動を肯定し、継続的な努力を支援します。
行動の承認は、目標達成への道のりが長い場合に有効です。
たとえば…
先方からお礼をいわれたよ
君が度々顔を出して
相談にのってあげたことで
誠意が伝わったんだね
❹ 目標に向かう意識
意識に対するアクノレッジは、目標に対する熱意や決意を認め、精神的なサポートを提供します。
意識を承認することで、内面的な動機づけを強化し、困難に直面しても前向きな姿勢を保つことができます。
たとえば…
君の目標に対する情熱や姿勢が
若手の手本になっているよ
複数の社員から頼りになる先輩として
君の名前が挙がったよ
結果が出ていなくても、プロセスや行動、意識はアクノレッジできます。
重要なのは…
結果にこだわらず よい変化があれば認める
…という習慣
観察だけでなく、
耳から入ってくる情報を加えて、アクノレッジの機会を増やしていきましょう。
メッセージの伝え方は次の3点。
アクノレッジメントの伝え方のバリエーションです。
❶ YOUメッセージ
YOUメッセージは、相手の行動や成果に直接的に焦点を当て、その人の行為を具体的に承認する方法。
相手が自分の行動が認められていると感じやすく、自己効力感を高める効果があります。
たとえば…
君のアイデアで
停滞していたプロジェクトが
前に進みだした
チームの雰囲気も前向きに変わったよ
❷ Iメッセージ
Iメッセージは、相手の行動が自分にどのような影響を与えたかを伝える方法。
これにより、相手は自分の行動が他人にポジティブな影響を与えていることを実感でき、関係性の強化にもつながります。
たとえば…
君が期限前に
レポートを完成させたおかげで
プレゼンの準備に早く取りかかれた
おかげで週末、子どもと過ごせるよ
❸ WEメッセージ
WEメッセージは、チームや集団の一員としての相手の貢献を承認する方法。
これにより、部下はチームの重要な一部であると感じ、所属意識や団結力を高めることができます。
たとえば…
君が調整役を買って出てくれたから
他部署との連携がスムーズになった
チーム全員が君に感謝しているよ
アクノレッジメントの使い分け
現在のマネジャーは、先輩や同期が部下になったり、Z世代の新入社員が入ってきたりで…
対応に苦慮することが多い。
アクノレッジを使おうにも、
躊躇する場面も出てきます。
たとえば、相手がかつての先輩の場合、
お前に言われてもねぇ
…なんて思われ、関係がギクシャクしても困る。
しかし、
「アクノレッジは相手の存在を認めること」という原点に返って、対応を考えると
解決策が見えてきます。
以下に対応の工夫を解説します。
❶ 年上の部下
ポイントは…
相談して教えを乞う姿勢をもつこと
このことが、相手の存在や価値を「認める」ことになります。
ベテランの知見に頼ることは、こちら側もメリットが大きい。
○○の経験があるAさんに
相談があるんですが
…という一言で、
相手を尊重する気持ちが伝わります。
ベテランにとって、周囲から頼られる存在であることは、単なる仕事上の役割を超えた、誇りと自覚の源泉となります。
長年培ってきた経験と知識を活かし、チームに貢献する。
その過程で、自らの存在意義を実感します。
また、案件によっては
おまかせします
…の一言を添えるのも有効です。
「頼りになる存在です」というメッセージとなり、その判断や能力を尊重していることが伝わります。
❷ 同期の部下
ポイントは…
悩みを打ち明ける相手として頼ること
同期入社の者が部下になった場合、上司と部下という関係性だけでなく、かつての同僚という関係性も存在します。
その関係性を活かして、フランクに悩みを打ち明ける相手として頼ることは、効果的なアクノレッジメントを行う上で重要なポイントとなります。
ちょっと
俺のグチ聞いてくれるか?
…と声をかけるのも、ひとつのアイデアです。
つまり、ほかの社員には言えない悩みを打ち明ける相手として存在を認める。
自分の困り感をフランクに話すことで
- 外からはわからない苦労を抱えているんだな
- 自分には胸の内を明かしてくれた
- 変わらぬ態度で接してくれる
…というメッセージが伝わります。
なかには「嫉妬」の感情を抱く同期もいるかもしれません。
上司になったら物言いまで変わった
…となれば、信頼関係が崩壊します。
オープンなコミュニケーションを心がけ、
ありのままの自分を見せる機会を設けましょう。
❸ 若手社員
ポイントは…
丁寧な説明と傾聴
若手社員は経験が少ないため、業務の背景や目的を理解することが、仕事への関心やモチベーションを高めるカギとなります。
この案件、明日までにやっといて
…などの指示の繰り返しだけでは
翌週には姿を消します。
その仕事がなぜ必要なのか、どのような貢献を期待するのかを丁寧に説明する必要があります。
将来のキャリアとの関係を示唆するのも効果的。
たとえば…
この仕事をとおして
市場分析のスキルを身につけると
マーケティング部門への道も開けるよ
大切なのは…
本人の希望に沿って可能性を示唆すること。
そのためには、相手がどんなことに興味を持ち、どんな気持ちを抱いていて、どんな未来を想像しているかを聞くことが出発点になります。
若手社員の言葉に耳を傾ける「傾聴」の機会を設ける。
その上で、相手の成長や成功のために自分がどんな関わり方をするのがベストなのか…
について考える視点をもちましょう。
なお、経営者(社長)や役員など組織の上位にある人には、本人よりも社風や社員の対応、商品やサービスの優れた点を認めることがアクノレッジメントになります。
御社の社員は
どの方も丁寧に対応されますね
…など、組織のプラス面をアクノレッジすることが有効。
アクノレッジメントが心の安定剤になる理由
人は太古より集団のなかで役割を担うことで、メンバーからその存在を認められ、生命を維持してきました。
生命維持のシステムのなかで、個人が自分の存在や行動が他者によって認識され、その価値を認められる否かは死活問題。
そのため、人類の生存本能は、絶えず自分がこのシステムの内に入っているかどうかをチェックしています。
この生命維持の働きは、切実感をともなって私たちのなかに残っています。
たとえば…
〇〇さんのおかげで
…と言われると安心し、
もっと役に立ちたいと思う。
「承認」がないと心が渇き、深刻な不安に襲われます。
なぜなら、単なる満足感ではなく…
生存レベルの切実感が心を揺さぶるからです。
「いいね」の承認やフォロワーの数に心が騒ぐのも、これが理由。
アクノレッジメントも、いわば「いいね」の承認です。
社員の成果や成長、行動や意識の変化のなかに「いいね」を探し、
それを認め、言葉で伝えていきましょう。
そうすることで社員は「安心」を得るとともに、あなたを信頼し、よき協力者へと変わっていきます。
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アクノレッジメントについて深く学びたい
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