本テーマは、以下の構成で書き進めています。
- 説得を成功に導く準備
- Step1 信用の構築
- Step2 戦略の策定
- Step3 論拠の選択
- Step4 感情に訴えるアプローチ
Part1では、この中の ❶ 説得を成功に導く準備 ❷ 信用の構築 を記事にしました。
今回のPart2は、❸ 戦略の策定 ❹ 論拠の選択 ❻ 感情に訴えるアプローチ がテーマです。
❶❷を踏まえて、説得のための下地をつくり、信用もある程度得ました。
次は…
というStepになります。
そのために必要な努力は…
- 共通利益・見解が一致するところを見極めて戦略を立てる
- データを収集し、納得性の高い証拠を精査する
- 聞き手との間に感情的なつながりをもつ
以上の3点となります。これが、Step2~4に関わる努力です。
本記事では、この3点について解説をしていきます。
手っ取り早く、実践例を知りたい方は、次の記事を参照ください。
こんな方に役立ちます。
- 説得の技術を知りたい
- 営業・企画など交渉場面の多い部署に配属された
- キャリアップの意識をもっている
- 同僚に差をつけたい
Step2 戦略の策定 2つのポイント
説得のための戦略を策定する上で重要なことは、共通利益を見極めて、見解が一致するところを探る、という努力です。
具体的には、以下の2つのポイントがあります。
共通利益が発生するところを見極める
「論拠の選択」で必要となるデータは…
「双方に共通する利益を見極めること」で明確になります。
BtoBであれば、比較的その見極めは容易です。
売上高・収益・コスト削減など、会社の成功に関わる内容に限られるからです。
一方、BtoCの場合は、顧客にとってのベネフィットを追求する必要があります。
提案する物・事によって自分の人生や生活にどのようなよい変化をもたらすのか、顧客がその恩恵について納得できなければ、行動にまで至らないからです。
相手と見解が一致するところを見極める
大切なことは…
説得する相手と早い段階から接触を図ることです。
ただし、信用を基盤とした「接触」でなければ、十分な情報は得られません。
接触の際は、前記事の『信用の構築』を参照してください。
接触の中で得た情報に基づいて、相手の視点を取り入れて戦略の枠組みを柔軟に見直します。例えば…
集客や販路開拓を主題として説得を展開しようと考えていたが、意思決定者の幹部がコスト削減を含めた案を求めていることを知った…
ロジックツリーで図解化して表すと…
この場合、「幹部の意向」を説得の材料に加える、というように…
「戦略の枠組み」を柔軟に見直していきます。
Step3 論拠の選択
共通の基盤(共通利益や見解)を見極め、戦略の枠組みができたら、次は…
相手に納得をもたらす証拠を収集し、精査します。
以下の順で解説します。
- データの収集
- データの選択
データの収集
前述のロジックツリーを使って例示すると…
ロジックツリーを活用すると、このようにデータ収集の範囲が明確になります。
現段階で見通しが不明で、データの収集が困難な範囲は、許可があれば試行期間(トライアル期間)を設けてデータを収集します。
試行期間を設けない場合は…
リピーター獲得率や購買行動調査・顧客満足度調査など、事後調査・追跡調査をとおしてデータを収集・分析する方法があります。
データの選択
説得に採用するデータについても、ロジックツリーが一定の目安になります。
接点の多い項目に重点を置いて、様々な側面からデータを収集し分析を進めます。
上図の場合は…
自社商品のページへのPV(アクセス数)CTR(クリック率)CVR(コンバージョン率)、アクティブユーザー数の推移、リピート率、流入経路、メール会員登録数などを対象に、データを収集し分析を進めます。
Step4 感情に訴えるアプローチ
意思決定者を行動へと導く=説得を成功に導くには…
共感や欲求の喚起が必要です。
つまりは、相手の感情を動かす工夫。
客観的な証拠を示すだけでは、説得はうまくいきません。
そこで、感情に訴えるアプローチを以下の2点紹介します。
- データをストーリー化する(データストーリーテリング)
- What&Why→Howの型で感情を動かす
データをストーリー化する(データストーリーテリング)
データから得られたことを羅列して示すのではなく…
ストーリーにして相手に伝える
このことによって、専門性を持たない人でもデータが示す意味「何が起きたのか、どのようにして起きたのか、なぜ起きたのか、何と関係があるのか」などを理解しやすくなり、共感を呼ぶことができます。
何らかの解決策・改善策が説得のテーマである場合は、その真因(根本的な原因)を追究する必要があります。
真因を突き止めなければ、抜本的な解決策・改善策の提案にはならないからです。
データ相互を関連づけて因果関係・相関関係などを見ていくと、真因を発見することができます。
原因分析には様々な手法がありますが、ここでは、簡略化して例を示します。
この図の場合、「アクティブユーザーの増減」が真因であり、このことが「どのようにして起きたのか、なぜ起きたのか、何と関係があるのか」など、関係するデータと関連づけながら解決策に至るように構成すると、ストーリー化できます。
過去の成功事例を引き合いに出したり、自社の強みと関連づけたりしてストーリーを補完すると、さらに相手の感情を動かすことができます。
What & Why → How の型で感情を動かす
What&Why→Howとは…
「なんだろう?」「なぜだろう?」という問いを起点として、解決策へと導く方法
ABC理論のことは、ご存じの方も多いと思います。
出来事【Activating events】を、どのように受け取るか(思考・信念・考え方)【Belief】によって結論(感情・行動)【Consequences】が決まる、という考え方です。
この「どのように受け取るか(Belief)」を、What&Whyの問いによって、自分の意図する方向へとコントロールし、さらに解決策つなぐようにします。
つまり、What&Whyの問いを起点に、「知りたい」「はっきりさせたい」→「そうだったのか」→「では、どうすれば解決できるだろう」というように、相手の課題意識が連続するように説明を構成する、ということです。
この話し方のスタイル … 池上彰さんを思い浮かべた方も多いと思います。
ポイントは、「知りたい」「はっきりさせたい」という欲求(感情)を呼び起こすような問いを創出することです。
「問いを立てる力」と「解決策に至るまでの問いの構成力」が提案者に求められます。
併せて、説得する相手の意識の流れを想定して問いのシナリオ(発問計画)をつくる作業が必要です。脚本をつくる、というイメージで挑戦してみてください。
具体例を次に示します。
What&Why
クイズ番組で「〇〇に入る言葉は何でしょう?」という問題が出されると、TV視聴者はゲスト解答者よりも早く答えを出そうと考えを巡らせます。
このようにWhatの問いを立てると、相手をその問いに引きつけることができます。
そして、「何が問題なのか」という課題意識を高めます。
例えば…
R2の売上高成長率が+16.5%に達したことはご存知と思います。
この売上高成長率の増減と相関する数値を示します。
+0.5%の伸びで、売上高成長率を15%以上押し上げました。要因として何か思い当たることはありませんか?
この場合、相関の確かさを補完して強調するとよいでしょう。
例えば…
他の年度比較を併せて紹介しますと…
これらのことから、私たちはアクティブ率の変動を注視してくべきだと考えます。
(次に…)
では、このアクティブ率の変動(H30・R2)は、なぜ起きたのでしょうか?
データを示しながら説明を進めていきます。
このように、What&Whyの問いによって相手の課題意識を連続させることができます。
ただし、説得前の準備が十分でないと、相手はすぐにあなたの浅薄さを見抜きます。
説得の前に、自分自身でしっかり「what(何が問題なのか)」と「why(なぜ起きたのか)」を問い続けること、「どのようにして起きたのか」「何と関係があるのか」を追求することが重要です。
How
「what(何が問題なのか)」と「why(なぜ起きたのか)」を問い続け、「どのようにして起きたのか」「何と関係があるのか」を追求して、「how(どうすればよいか)」に至ります。
例えば…
このように、図解にして思考を整理すると、「how(どうすればよいか)」の要点が明確になります。
このことによって、相手の課題意識を満足させる「説得」が実現します。
捕捉しますと、上図を見てわかる通り、やはり「真因の特定」が重要になります。
真因がずれていると、提案すべてが成立しません。
一人で真因を追うのではなく、ディスカッションをとおして、多様な見方・考え方を取り入れながら真因を突き止めるようにします。
「説得」の準備の中で、今後に活かせる財産が蓄積する
ここまで、読んでいただいた方は、準備の重要性にお気づきのことと思います。
❸ 戦略の策定 ❹ 論拠の選択 ➎ 感情に訴えるアプローチ の3点すべてに綿密な準備が必要です。むしろ、説得の成功は準備次第と言えます。苦労も多いと思います。
しかし、これらの準備の中で、あなた自身が多くの専門知識や信頼を得ることができます。
人脈も生まれます。それは、説得に挑戦した者にしか与えられません。
新入社員のみな様におかれましては、説得の機会を与えられたら…
自ら手を挙げてキャリアを積んでほしい、と期待しています。
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